トヨタミライの中古車が安い理由を知りたいと考えているあなたは、おそらく驚異的な安さに惹かれつつも、あまりの価格崩落ぶりに一抹の不安を抱いているのではないでしょうか。新車価格が700万円を超える高級セダンが、中古市場では軽自動車以下の価格で投げ売りされている現状を見れば、何か裏があるのではないかと勘繰るのは当然です。
私自身、長年トヨタ車を乗り継いできましたが、ミライの減価償却スピードは異常とも言える水準であり、そこには明確な構造的要因が存在します。特に水素ステーションの閉鎖問題や、水素燃料価格の高騰といった維持費に関するネガティブなニュースは、購入を検討する上で決して無視できない現実です。また、水素タンクの寿命や交換費用に関する噂も、多くの人が二の足を踏む大きな要因となっています。この記事では、なぜこれほどまでにミライの中古価格が安いのか、その背景にあるインフラ事情や技術的リスク、そして将来的な資産価値まで包み隠さず解説します。
- トヨタミライの中古価格が異常に安い構造的な理由と背景
- 購入後に直面する水素ステーション閉鎖リスクと不便な現実
- ガソリン車や電気自動車と比較した維持費の圧倒的な高さ
- 水素タンクの寿命問題や高額な交換費用に関する正しい知識
トヨタミライの中古が安い理由と価格崩壊の真相

まず結論から申し上げますと、トヨタミライの中古車価格が崩壊している最大の理由は、需要と供給のバランスが完全に崩れていることにあります。モノとしての完成度や乗り味は間違いなく「クラウン」や「レクサス」に匹敵する超一流品ですが、それを運用するための環境があまりにも整っていないのです。ここでは、市場データやインフラの現状から、なぜここまで価値が下がってしまったのか、その冷徹な現実を紐解いていきます。
暴落する中古車相場と年式別の残存価値率
ミライの中古車市場における評価は、率直に言って「壊滅的」です。一般的に高級セダンは値落ちが激しいカテゴリーですが、ミライの下落率はその常識を遥かに超えています。特に2014年にデビューした初代モデル(JPD10型)に関しては、もはや車両としての資産価値は底を打っており、数十万円台で取引されることも珍しくありません。
なぜこれほど安いのか。それは市場がミライを「実用車」としてではなく、リスクの高い「実験車両」として見なしているからです。新車時には723万円もした車が、わずか8年〜9年で残存価値率が数パーセントにまで落ち込むというのは、トヨタ車としては異常事態です。例えば、同年代の「クラウン」や「アルファード」であれば、まだ数百万円の価値がついているケースも多々あります。
さらに衝撃的なのは、2020年に登場した現行型の2代目モデルですら、凄まじいスピードで価値を失っているという点です。デビューからわずか3年程度で、買取相場が新車価格の3分の1以下になるケースも散見されます。これは「買った瞬間に半額になる」と言っても過言ではないレベルであり、新車で購入したオーナーにとっては悪夢のような状況でしょう。
この価格推移を見ると、5万kmを超えたあたりでガクンと価格が下がる傾向も見られます。これは、後述する部品寿命への不安から「保証が切れる前に売り抜けたい」という心理が働くためです。市場は正直です。「良い車」であっても「維持しにくい車」には値段をつけません。この冷酷なまでの市場原理が、ミライを「激安高級車」に変えてしまったのです。
相次ぐ水素ステーション閉鎖とインフラの不便さ

車両が安くても、燃料を入れる場所がなければただの鉄の塊です。ミライの中古価格を押し下げている最も深刻な要因は、まさにこの「インフラの崩壊」にあります。2024年から2025年にかけて、水素ステーションの閉鎖という衝撃的なニュースが相次ぎました。
特に業界に激震が走ったのは、エネルギー最大手のENEOS(エネオス)系列によるステーション閉鎖の発表です。大阪や福岡といった主要都市圏の店舗ですら採算が合わずに撤退を余儀なくされる現状は、FCEV(燃料電池車)の普及がいかに困難なフェーズにあるかを物語っています。
(出典:株式会社ENEOS水素サプライ&サービス『枚方走谷水素ステーションおよび八幡東田水素ステーション閉店のお知らせ』)
想像してみてください。自宅の近くにあった唯一の水素ステーションがある日突然「閉店します」と告げられたらどうでしょうか。ガソリンスタンドなら隣町に行けば済みますが、水素ステーションは隣の県まで行かないとない、ということもザラにあります。これを私は「水素砂漠」と呼んでいますが、この砂漠地帯に住む人にとって、ミライは移動手段としての価値を完全に喪失します。
また、現在稼働しているステーションも、その多くが「商用利用」や「実証実験」の色合いが強く、一般ユーザーにとっては極めて使い勝手が悪いのが実情です。営業時間が平日の昼間だけだったり、予約必須だったり、あるいはメンテナンスで頻繁に休止していたりと、24時間365日いつでも給油できるガソリン車とは雲泥の差があります。
中古車市場では、こうした「運用リスク」が価格にダイレクトに反映されます。「家の近くにステーションがないから買えない」「いつ閉鎖されるか分からないから怖くて買えない」。この圧倒的な需要の少なさが、入札の入らないオークション相場を作り出し、結果として激安価格で店頭に並ぶことになるのです。
水素代値上げで高騰する燃料代と維持費
かつてミライは「究極のエコカー」ともてはやされましたが、お財布事情に関しては決して「エコ」ではありません。むしろ、現在の中古車市場においてミライが敬遠される大きな要因の一つが、このランニングコストの高さです。特に2025年に入ってからの水素価格の高騰は、ユーザーに追い打ちをかけました。
象徴的だったのが、業界をリードする岩谷産業(イワタニ)による大幅な価格改定です。一部地域や店舗では約36%もの値上げが実施され、水素1kgあたりの価格は1,600円台〜1,700円台にまで跳ね上がりました。これにより、「ミライは燃料代も安い」という神話は完全に崩れ去りました。
具体的にどれくらい高いのか、ハイブリッド車の代表格であるプリウスや、電気自動車(BEV)のテスラと数字で比較してみましょう。
ご覧の通り、ミライの燃料代はプリウスの約2倍から3倍、家庭で充電する電気自動車と比較すると4倍以上にも達します。これはもはや「高級スポーツカー」並みの維持費です。「車両本体が安いから」といって飛びつくと、毎回の充填で支払う金額の高さに愕然とすることになります。
さらに厄介なのは、水素ステーションまでの移動コストです。往復で数十キロ走らなければならない場合、その移動のためだけに数百円分の水素を消費します。時間も燃料も浪費するこの構造は、経済合理性を重視する中古車ユーザー層とは極めて相性が悪く、それが「安くしないと売れない」という圧力につながっているのです。
補助金の保有義務期間明けによる市場への大量供給
ミライの中古車相場には、人為的な「需給の歪み」も大きく影響しています。それが、新車購入時に交付される巨額の補助金と、それに紐づく「保有義務期間」の存在です。
ミライを新車で購入すると、国や自治体から総額で200万円を超える補助金を受け取ることができます。しかし、これには「4年間は手放してはいけない」といった処分制限期間(いわゆる「4年縛り」)が設けられています。この期間内に売却すると、補助金を返納しなければならないため、多くのオーナーは最低でも4年間は乗り続けます。
問題は、その「縛り」が解けた瞬間に発生します。インフラの不便さに耐えかねていたオーナーたちが、保有義務期間の終了と同時に一斉に売却に動くのです。これにより、特定年式の中古車が市場にドッと溢れかえります。需要が少ないところに供給だけが過剰になるわけですから、価格競争が起きて相場が暴落するのは必然です。
また、最初のオーナーは補助金のおかげで実質的に安く購入できているため、売却時の希望額を低く設定してもダメージが少ないという側面もあります。「元が取れているから、安くてもいいから早く手放したい」という心理が働き、それが市場全体の価格を押し下げるアンカー(錨)となってしまっているのです。
海外への輸出ルートがなく国内で飽和する仕組み

通常、日本の中古車市場で人気がなくなった車や、走行距離が増えた車は、海外へ輸出されることで価値を維持します。例えば、過走行のプリウスや古いカローラは、モンゴルやアフリカ、パキスタンなどで飛ぶように売れていきます。この「輸出需要」が、日本の中古車相場を下支えしている重要な要素なのです。
しかし、ミライにはこの「逃げ道」がありません。理由は単純明快で、輸出先の国々に水素ステーションが存在しないからです。インフラがない国にFCEVを輸出しても鉄屑同然ですから、海外バイヤーはミライに見向きもしません。
その結果、日本国内で発生した中古のミライは、すべて日本国内で消費(再販)しなければならなくなります。これを「国内還流」と呼びますが、ただでさえ水素ステーションが少ない日本国内で、中古のミライを欲しがる人は極めて稀です。
「海外に売れない」=「国内で安く売り切るしかない」。この構造が変わらない限り、ミライの中古車価格が劇的に回復することはあり得ません。この閉鎖的な市場環境こそが、他のトヨタ車とは異なる異常な値崩れを引き起こしている真犯人なのです。
トヨタミライの中古が安い理由となる技術的リスク
ここまでは経済的な側面を見てきましたが、ミライの安さには「技術的な寿命」への懸念も大きく関わっています。水素で走るという最先端のシステムは、裏を返せば「未知の故障リスク」と「高額な修理費」の塊でもあります。ここでは、購入前に必ず知っておくべき技術的なリスクについて深掘りします。
水素タンクの寿命到来と高額な交換費用の真実

「ミライを買うならタンクの期限に気をつけろ」。これは中古車業界でまことしやかに囁かれている警告です。ミライに搭載されている高圧水素タンクには、法的な使用期限が存在します。高圧ガス保安法などの規定により、一般的には製造から15年を経過すると、そのタンクには水素を充填できなくなるとされています。
初代ミライが登場したのは2014年末。つまり、初期型のモデルは2029年から2030年にかけて、順次この「15年の壁」に到達し始めます。タンクが使えなくなれば、車検に通らないどころか、物理的に走行不能になります。
「交換すればいいのでは?」と思うかもしれませんが、ここが最大の落とし穴です。高圧水素タンクの交換費用は、部品代と工賃を含めて数百万円規模になると噂されています。中古で50万円で買った車の修理に200万円をかける人はいません。つまり、タンクの寿命が尽きた瞬間が、その車の「廃車」を意味するのです。
中古車市場は、将来の売却価格(リセールバリュー)を見越して動きます。「あと数年でゴミになることが確定している車」に高い値を付ける業者はいません。年式が古くなればなるほど、この「余命宣告」までのカウントダウンが進むため、価格はゼロに向かって急降下していくのです。
特殊なシステムゆえの故障リスクと修理の難しさ
ミライは、一般的なガソリン車とは全く異なる構造をしています。心臓部であるFCスタック(燃料電池スタック)は、化学反応で電気を生み出す超精密機器です。このFCスタックも、走行距離や経年によって劣化し、発電効率が落ちていきます。
もし中古で購入したミライのシステムに異常が出た場合、修理できる場所は「トヨタの正規ディーラー」のみに限られます。街の整備工場や格安車検のチェーン店では、ボンネットを開けることすら敬遠されるでしょう。ブラックボックス化された特殊なシステムには、汎用の診断機が通じないからです。
「安く買って安く直しながら乗る」という中古車ライフの王道が、ミライでは通用しません。このメンテナンス性の悪さと、万が一の高額出費への恐怖心が、購入希望者を遠ざけ、価格を押し下げる要因となっています。
トランクが狭く使い勝手が悪いボディサイズ
車としてのパッケージング(使い勝手)の悪さも、不人気の理由の一つです。特に初代ミライは、全長4.9メートル近い巨体を持ちながら、車内は驚くほど狭いという矛盾を抱えています。
原因は、後席の背後や床下に配置された巨大な水素タンクです。これによりトランク容量は大幅に圧迫されており、ゴルフバッグや大型のスーツケースを積むのは一苦労です。ボディサイズはクラウン並みなのに、積載能力はカローラ以下。このアンバランスさは、ゴルフ場へのエクスプレスとして使いたい層や、ハイヤーとして使いたい法人需要を逃しています。
さらに初代モデルに関しては、後席の中央に大きな出っ張りがあるため「4人乗り」という致命的な弱点があります。いざという時に5人乗れないセダンは、ファミリーカーとしての選択肢から外れます。「デカくて運転しにくいのに、荷物も人も乗らない」。この実用性の低さが、中古車市場での競争力を著しく削いでいるのです。
ライバル車と比較して際立つ経済性の低さ

かつて「次世代エコカー」の座を争っていた電気自動車(BEV)との勝負も、現時点では完全に決着がついたと言わざるを得ません。テスラの「Model 3」や日産の「アリア」など、ライバルとなるBEVの中古車価格は比較的高値を維持しています。
BEVには「自宅で充電できる」という圧倒的な利便性があり、深夜電力を使えばランニングコストも激安です。ソフトウェアのアップデートで機能が進化することもあり、資産価値が維持されやすい傾向にあります。一方でミライは、ハードウェアに依存した古い価値観の車であり、インフラ制約という足枷をはめられています。
同じ予算で中古車を探すユーザーが、ミライとModel 3を比較したとき、「不便で燃料代が高いミライ」を選ぶ合理的な理由はほとんどありません。市場における「相対的な魅力の低下」が、ミライの価格をここまで押し下げてしまったのです。
まとめ:トヨタミライの中古が安い理由の総括

ここまで、トヨタミライの中古車がなぜこれほどまでに安いのか、その理由を多角的に解説してきました。価格崩壊の背景には、単なる人気不人気というレベルを超えた、FCEV特有の構造的な課題が山積しています。
では、中古のミライは「絶対に買ってはいけない車」なのでしょうか?実は、条件さえ合致すれば、これほどコストパフォーマンスの高い車は存在しません。「自宅から5分以内に水素ステーションがある」「セカンドカーとしての利用で走行距離が少ない」「最新技術の滑らかな走りを激安で体験したい」。もしあなたがこの条件に当てはまる数少ない「選ばれし者」であるならば、50万円で買える700万円クラスの乗り味は、最高の贅沢になるかもしれません。リスクを正しく理解した上で、賢い選択をしてください。




